1. はじめに
工務店の経営において、利益確保は重要な課題の一つです。利益が出なければ事業継続が難しくなるばかりでなく、社員の給与や設備投資、品質向上のための研修などにも影響します。しかし、利益を確保するためには、平均利益率の把握からコスト管理、販売戦略など、さまざまな視点からの取り組みが必要となってきます。本稿では、工務店の利益確保を目指す経営者や担当者の方々に向けて、効率的な運営方法について紹介します。これからご説明する内容を理解し、実践することで、皆様の工務店経営がより一層発展することを願っています。
2. 工務店の平均利益率とその重要性
(1) 業界内での平均利益率
工務店業界における平均利益率の理解は、自社の経営状況を把握し、適切な運営戦略を立てる上で欠かせません。
経済産業省の「平成31年度全国新築住宅着工統計」によると、一般建築工務店の平均利益率は約5.9%となっています。これは全営業収入に対する営業利益の割合を示しており、この数値が高いほど経営効率が良いと考えられます。
しかし、一概にこの平均利益率を目指すべきかというと、そうではありません。自社の規模や経営状況により、適切な利益率は異なります。大切なのは自社の利益率が業界平均と比較してどの位置にあるのかを把握し、改善の方向性を見つけることです。
(2) 利益率を意識する重要性とは
工務店が利益を確保するためには、単に「売上を上げる」だけでは不十分です。ここで重要なキーワードが「利益率」です。
利益率とは、売上からコストを引いた利益を売上に対する比率で示したもので、経営状況を把握するための重要な指標となります。高い利益率を維持することで、売上が減少した場合でも利益を確保することが可能となります。
具体的な数値で見てみましょう。
売上 | 利益率 | 利益 |
---|---|---|
1000万円 | 20% | 200万円 |
800万円 | 25% | 200万円 |
上の表を見て分かる通り、売上が下がっても利益率を上げることで同等の利益を確保することが可能です。つまり、利益率を意識し、積極的に向上させることが工務店の経営において重要なのです。
3. 利益率が低いときに取り組むべきこと
(1) 現金の確保
工務店経営において、利益率が低い状況でも、まず重要なのは「現金の確保」です。現金流が安定していなければ、事業継続そのものが難しくなります。
具体的には、以下のような対策を実施します。
【表1】現金確保の具体策
方法 | 説明 |
---|---|
運転資金の見直し | 短期間で回収可能な債権や、即時に売却可能な資産を増やすことにより、キャッシュフローを改善します。 |
長期支払いの見直し | 支払い条件を再交渉し、支払い期限を延長することで、現金の流出を抑制します。 |
売上債権の早期回収 | 顧客に対する請求・督促を徹底することで、現金化を早めます。 |
これらの対策は、工務店の経営基盤を強化し、改善するために非常に重要なステップです。
(2) 固定費の削減
工務店の運営においては、固定費の削減も重要な取り組みの一つです。固定費とは、売上に関わらず必ず発生する費用のことで、例えば家賃や人件費などが含まれます。これが高いと、利益率が下がります。
まず、現状の固定費を把握しましょう。固定費の内訳・金額をリスト化することで、削減の余地がある項目を見つけることが出来ます。
次に、それぞれの項目について削減可能な部分を見つけ、具体的な改善策を立てていきます。例えば、家賃が高い場合には事業所の移転を検討したり、人件費が大きい場合には業務の効率化を進めることで削減を図ることが可能です。
これらの取り組みにより、固定費の削減を実現し、工務店の利益を確保することが可能となります。
(3) 集客施策の見直し
工務店が利益を確保するためには、適切な集客施策は欠かせません。「集客施策の見直し」では、まず現状の集客方法を客観的に評価し、その有効性を検証します。例えば、経済情勢や市場状況の変化を考慮し、広告媒体の選択やターゲット顧客の再定義が必要か検討します。
次に、集客コストと集客効果を比較し、集客にかける費用対効果を評価します。これにより、効率的な集客方法を見つけ出します。下記表はその例です。
集客方法 | 集客コスト | 集客効果 | 費用対効果 |
---|---|---|---|
チラシ | ◯◯◯円 | △△名 | □□% |
インターネット広告 | ◯◯◯円 | △△名 | □□% |
最後に、新しい集客方法を模索します。例えば、SNSを活用した情報発信や口コミを促進する施策など、時代に合った新しい集客方法を試してみましょう。
4. 利益率アップのための準備と施策
(1) 年間粗利益の目標設定
年間粗利益の目標設定は、工務店が利益を確保するために最初に取り組むべきステップです。その理由は、目標設定が事業計画の明確化と方向性の確認に直結するからです。
具体的には、以下のステップで目標を設定します。
- 前年度の粗利益を確認します。これがベースとなります。
- 業界の平均利益率や経済情勢を考慮して、目標の粗利益を設定します。
- それに基づいて、月ごと、四半期ごとの目標を立てます。これにより、進捗管理が容易になります。
表1: 年間粗利益目標設定の例
項目 | 金額 |
---|---|
前年度粗利益 | ¥10,000,000 |
目標粗利益(10%増) | ¥11,000,000 |
月ごとの目標(12分割) | ¥916,666 |
このように、年間粗利益の目標設定は、目指すべき方向を明確に示すために不可欠な活動です。ですから、この段階での計画的な取り組みが、利益率アップにつながるのです。
(2) 現場ごとの利益率設定
工務店における利益確保のために重要なのが、現場ごとの利益率設定です。工事一つ一つについて、しっかりと利益率を設定することで、収益計画との差異分析が容易になります。
まず、現場ごとの利益率を設定するためには、工事の見積もり時に、工事原価と販売価格を明確に把握することが必要です。その上で、具体的な利益率を計算し、目標とする利益率を設定します。
次に、工事が進行するごとに実際の経費を把握し、見積もりとの差をチェックします。これにより、途中で利益率が低下していないか、また予定していた利益が確保できているかを確認することが可能となります。
これらのプロセスを通じて、各現場で予定通りの利益が確保できているかを常に把握し、適時に対策を講じることが重要です。これが現場ごとの利益率設定の意義と効果となります。
(3) 販売単価の引き上げ
建築業界における工務店の利益確保には、販売単価の引き上げが有効な方法の一つとなります。販売単価とは、お客様が払う商品やサービスの価格のことを指します。販売単価を上げることで、一件あたりの利益率を向上させることが可能です。
ただし、単に価格を上げるのではなく、それに見合った価値を提供することが重要です。例えば、質の高い素材採用、こだわりのデザイン、充実したアフターサービスなど、他社と差別化できる付加価値を提供することで、高い販売単価も納得感を持って受け入れてもらえます。
また、販売単価の設定は、地域性や顧客層、競合他社との比較なども考慮に入れる必要があります。適正価格を見極めることで、工務店の利益確保だけでなく顧客満足度も向上します。
(4) 工事原価の見直し
工事原価の見直しは、工務店の利益を確保するにあたって大切な要素となります。工事原価とは、具体的には工事に必要な材料費、人件費などを指します。これらのコストが増えれば増えるほど、利益率は下がってしまいます。
そこで、まずは工事原価の詳細な内訳を把握することが重要です。どの部分にどれだけの費用がかかっているのかを正確に理解することで、無駄な出費を削減することが可能になります。
次に、材料費の見直しを行います。同じ品質の材料でも、仕入れ先を変えるだけでコストダウンが可能な場合もあります。また、効率よく作業を進められるよう人件費も見直し、適切な人員配置を検討します。
これらを繰り返し行うことで、工事原価の削減と利益率の向上につながります。
表1. 工事原価の見直し
項目 | 見直しのポイント |
---|---|
材料費 | 仕入れ先の見直し、品質とコストのバランスを見る |
人件費 | 効率的な人員配置、作業工程の見直し |
(5) 販売件数の増加
工務店の利益を確保するには、販売件数を増やすことも重要な戦略となります。多くの工事を受けることで、結果的に売上と利益を増加させることが可能です。
しかし、単純に販売件数を増やすだけではなく、適切な工事の選択が必要です。極端な話、利益率が低い工事をたくさん受けても、固定費などの経費が増えてしまい結果的に利益が出ないこともあります。
そのため、販売件数を増やす際には、以下の3つのポイントを意識することをお勧めします。
- 工事の内容:利益率の高い工事を選ぶ
- 工事の期間:短期間で終わる工事を選ぶ
- 顧客の選定:信頼性のある顧客を選ぶ
これらを考慮し、戦略的に販売件数を増やすことで、工務店の利益確保につながります。
(6) 付加価値の向上
工務店が利益を確保するためには、単に完成物件の売却だけでなく、その付加価値を高めることも重要です。
まず、最初の一歩として、顧客に対するサービスの質を向上させましょう。これには、細部までこだわった建築デザインや、アフターサービスの充実などが含まれます。これらの提供により、顧客からの評価が高まり、口コミによる新規顧客獲得へと繋がります。
次に、工事進行中のコミュニケーションも見直しましょう。例えば、工事の進行状況をリアルタイムで共有するようなシステムを導入することで、顧客との信頼関係を強化できます。
付加価値を上げるための施策は多岐にわたりますが、以下の表に主要なものをまとめました。
施策 | 付加価値 |
---|---|
建築デザインのこだわり | 顧客満足度向上 |
アフターサービスの充実 | リピート率向上 |
工事進行状況のリアルタイム共有 | 顧客信頼度向上 |
これらの施策を講じることで、工務店の利益率向上に寄与します。
5.まとめ
工務店の利益確保は、多方面からのアプローチが必要であることが分かりました。まず最初に業界内の平均利益率を理解し、自社の利益率をどのように修正すべきか洞察することが基本です。次に、現金の確保、固定費の削減、集客施策の見直し等、利益率が低いときには具体的な行動を起こすべきです。
また、利益率アップには年間粗利益の目標設定、現場ごとの利益率設定、販売単価の引き上げ、工事原価の見直し、販売件数の増加、付加価値の向上等を考慮し、バランスよく進めていくことが重要です。
最終的には利益確保という目標に向けて、全体を通じて計画的な経営を行うことが求められます。これらの実践により工務店の利益確保は十分可能であり、成功へと繋がることでしょう。